メカニカルキーボードの魅力の一つは、キースイッチを自分の好みや用途に合わせて選択・交換できる点です。キースイッチは単なる「押すための部品」ではなく、キーボードの打鍵感、音、応答性を大きく左右する重要な要素です。ここでは、キースイッチの基本的な種類、選び方、交換時の注意点について詳しく解説します。
目次
- キースイッチの基本的な種類
- 1. リニアスイッチ(Linear)
- 2. タクタイルスイッチ(Tactile)
- 3. クリッキースイッチ(Clicky)
- キースイッチの選び方
- 1. 使用目的
- 2. 作動力と重さ
- 3. トラベル距離
- 4. 音と打鍵感
- 5. 互換性
- 6. 予算
- キースイッチ交換時の注意点
- 1. ホットスワップ対応の確認
- 2. ピン数の確認
- 3. 必要な工具の準備
- 4. 静電気対策
- 5. ピンの損傷に注意
- 6. キーボードPCBの損傷防止
- 7. スイッチの潤滑考慮
- 8. スイッチフィルムの検討
- 9. スプリング交換の可能性
- 10. テスト
- おすすめのキースイッチ組み合わせ例
- 1. ゲーミング向け
- 2. タイピング向け
- 3. 静音性重視
- 4. 打鍵感の楽しさ重視
- まとめ
- 関連記事の一覧
キースイッチの基本的な種類
メカニカルキースイッチは大きく分けて3つのタイプに分類されます。それぞれ特徴的な打鍵感と音を持ち、用途によって向き不向きがあります。
1. リニアスイッチ(Linear)

特徴:
- 押し始めから底打ちまで一定の抵抗感
- タクタイルなバンプ(段差)がない滑らかな打鍵感
- 比較的静かな打鍵音(クリック音がない)
- 底打ちまで一定の力で押下できる
おすすめの用途:
- ゲーミング(特にFPSなど連打や素早い入力が必要なゲーム)
- 長時間のタイピング作業
- 静かな環境での使用
- 軽快なタイピング感覚を好む方
代表的な製品例:
- GATERON Oil King
- Cherry MX Red
- Gateron Yellow
- DUROCK L2
- JWK Ultimate Black
2. タクタイルスイッチ(Tactile)

特徴:
- アクチュエーションポイント(作動点)付近に明確な触覚フィードバック(バンプ)がある
- クリック音はないが、バンプを感じられる
- タイピングの正確性が向上しやすい
- バンプの強さによって様々なバリエーションがある
おすすめの用途:
- 一般的なタイピング作業
- プログラミングなど正確な入力が求められる場面
- 触覚フィードバックを好む方
- 静かながらも明確な打鍵感を求める方
代表的な製品例:
- DUROCK T1
- DUROCK Ice King Tactile
- Cherry MX Brown
- Gateron Brown
- Holy Panda
3. クリッキースイッチ(Clicky)

特徴:
- 押し込む際に「カチッ」という明確なクリック音が発生
- 強い触覚フィードバックがある
- 3タイプの中で最も音が大きい
- 入力の確認が音と感触の両方でできる
おすすめの用途:
- 自宅など音が気にならない環境での使用
- タイピングの音と感触を楽しみたい方
- クラシカルなタイプライター感覚を好む方
- キー入力の明確なフィードバックを求める方
代表的な製品例:
- GATERON Melodic Clicky
- Cherry MX Blue
- Kailh Box Jade
- Gateron Blue
- Kailh BOX White
キースイッチの選び方
キースイッチを選ぶ際には、以下のポイントを考慮すると良いでしょう。
1. 使用目的
- ゲーミング: リニアスイッチが一般的におすすめ。特に軽い作動力のもの(45g前後)が連打に適しています。
- タイピング中心: タクタイルスイッチが入力の確認がしやすく、ミスタイプを減らせる傾向があります。
- プログラミング/文章作成: タクタイルまたは軽めのクリッキースイッチが正確性を高めます。
- オフィス環境: 静音性を重視するなら静音リニアか軽めのタクタイルスイッチがおすすめです。
2. 作動力と重さ
キースイッチの「重さ」は通常、アクチュエーションフォース(作動力)とボトムアウトフォース(底打ち時の力)で表されます。
- 軽い(35g-45g): 長時間のタイピングや高速入力に適していますが、誤入力しやすい場合も。
- 中程度(45g-60g): 多くのユーザーに適した汎用性の高い重さです。
- 重い(60g以上): 誤入力を減らせますが、長時間の使用で疲労を感じやすいことも。
3. トラベル距離
キーが作動するまでの距離(プリトラベル)と全体の移動距離(トータルトラベル)も重要な要素です。
- 標準的なメカニカルスイッチ: 約4mmのトータルトラベル、約2mmのプリトラベル
- ショートストローク: 約3.0-3.5mmのトータルトラベル、素早い入力が可能
- ロープロファイル: さらに短いトラベル距離(約2.5-3.0mm)で薄型キーボード向け
4. 音と打鍵感
- 静音性重視: 静音リニアスイッチや特殊な静音処理が施されたスイッチ(GATERON ゼロディグリーなど)
- 打鍵音を楽しみたい: 標準リニアスイッチやタクタイルスイッチ
- クリック音が好き: クリッキースイッチ(オフィス環境では注意)
5. 互換性
- ピン数: 3ピンか5ピンか(PCBとの互換性)
- LEDサポート: SMD LED対応、スルーホールLED対応
- キーキャップとの互換性: ほとんどのスイッチはMX互換ですが、特殊なものもあります
6. 予算
- エントリーレベル: Gateron Yellow、Akko CS、JWK系など
- ミッドレンジ: Gateron Oil King、DUROCK T1、JWICK Vertexなど
- ハイエンド: GATERON マグネティック、Zealio、Holy Pandaなど
キースイッチ交換時の注意点
キースイッチの交換は自作キーボードの楽しみの一つですが、いくつか注意点があります。
1. ホットスワップ対応の確認
キーボードがホットスワップソケット対応かどうかを確認しましょう。ホットスワップ対応でない場合は、はんだ付けが必要となり、交換の難易度が上がります。
2. ピン数の確認
- 3ピンスイッチ: メインの中央ピンと2つのプラスチックピン
- 5ピンスイッチ: 中央ピンと4つのプラスチックピン
5ピンスイッチを3ピンソケットに使用する場合は、余分なプラスチックピンをニッパーなどでカットする必要があります。
3. 必要な工具の準備
- スイッチプラー: ホットスワップキーボード用のスイッチ引き抜き工具
- キーキャッププラー: キーキャップを外すための専用工具
- ピンセット: 細かい作業用
- ニッパー: 5ピンから3ピンへの変換時に使用
- はんだごて・はんだ吸い取り線: はんだ付け式キーボードの場合
4. 静電気対策
- 作業前に体の静電気を放電する
- 静電気防止マットや手袋の使用を検討する
- 静電気に弱い電子部品を扱う際の基本的な注意を守る
5. ピンの損傷に注意
- スイッチの金属ピンが曲がらないように注意深く挿入する
- 曲がったピンは慎重に真っ直ぐに戻す
- 無理な力を加えない
6. キーボードPCBの損傷防止
- ホットスワップソケットが外れないよう、真っ直ぐに力を加える
- PCBを平らな場所に置き、裏側からの圧力をかけないようにする
- スイッチの向きを確認(通常は北向き、つまりLEDホールが手前)
7. スイッチの潤滑考慮
- 工場出荷時に潤滑済みのスイッチを選ぶか
- 自分で潤滑する場合は、適切な潤滑剤(Krytox 205g0など)を用意する
- 潤滑作業は時間がかかるが、打鍵感と音質を大きく向上させる可能性がある
8. スイッチフィルムの検討
- ハウジングのぐらつきを抑えるためのスイッチフィルムの使用を検討
- スイッチによってはフィルムが必要ない場合も(特に最近の高品質スイッチ)
9. スプリング交換の可能性
- スイッチの重さを調整したい場合、スプリング交換も検討できる
- 同一キーボード内で異なる重さのスイッチを組み合わせる「フランケンスイッチ」という手法もある
10. テスト
- すべてのスイッチを交換した後、VIAやQMKなどのソフトウェアでキーの動作を確認
- チャタリングや応答しないキーがないかチェック
おすすめのキースイッチ組み合わせ例
様々な用途に応じたキースイッチの組み合わせ例を紹介します。
1. ゲーミング向け
- メインキー(WASD周辺): 軽いリニアスイッチ(GATERON Yellow Pro、JWKリニア45g)
- モディファイヤーキー: 少し重めのリニアスイッチ(GATERON Oil King、DUROCK L2)
- ファンクションキー: タクタイルスイッチ(入力の確認がしやすい)
2. タイピング向け
- アルファベットキー: 中程度の重さのタクタイルスイッチ(DUROCK T1、JWICK T1)
- モディファイヤーキー: やや重めのタクタイルまたはリニアスイッチ
- スペースバー: 好みに応じてリニアまたはタクタイル(通常は他のキーより少し重めが使いやすい)
3. 静音性重視
- 全てのキー: 静音リニアスイッチ(GATERON ゼロディグリー、Bobagum Silent Linear)
- または: 静音タクタイルスイッチ(Boba U4 Silent Tactile)
4. 打鍵感の楽しさ重視
- アルファベットキー: 強めのタクタイルスイッチ(DUROCK Ice King Tactile)
- モディファイヤーキー: 重めのリニアスイッチ
- エンターキー/エスケープキー: クリッキースイッチ(アクセントとして)
まとめ
キースイッチ選びは、自作キーボードやカスタマイズの重要な要素です。自分の好みや使用環境、目的に合ったスイッチを選ぶことで、タイピング体験は大きく変わります。初めての場合は、少量のテスターキットで実際に触れてみることをおすすめします。
また、一度にすべてのキーを同じスイッチにする必要はなく、キーの役割や使用頻度に応じて異なるスイッチを組み合わせる「キースイッチミックス」も人気のカスタマイズ方法です。自分だけの最適なキーボードを作り上げる楽しさを味わってみてください。
キースイッチの世界は奥深く、新しい製品も次々と登場しています。コミュニティの情報やレビューも参考にしながら、あなただけの理想的なタイピング体験を見つけることができるでしょう。